「……ふぅ」
半壊した部屋を、アミダテリオンはため息をついて見渡した。
先程の大喧嘩で、レイルが物を飛ばした残骸や、自身が召喚した魔物が破壊した家具の残骸などで
、部屋は酷い有様になっていた。
「あれは、レイルが悪いのです。私は何も――」
大喧嘩の理由は、今考えれば実に下らないもので。
発端は自身の発言からだったのかもしれない。
――数分前。
「本当は、私の事を好きではないのでしょう!?弄んで……何が楽しいのですか!!!」
レイルへの嫉妬からの発言だった。
彼が他の、自分以外の異性と親しくするのが、許せなかったのだ。
そこで不機嫌だったレイルがぶち切れ、仮にも彼女であるアミダテリオンに近くにあった本棚を投げつけたのだ。
そこから喧嘩の酷さはヒートアップ、ベアラー同士の闘いはもはや喧嘩と呼べる程のレベルではなくなり、アミ
ダテリオンの部屋は半壊にまで及んだのだった。
最後に、
「お前とは絶交だ!!もっといい女だと思ってた………っがっかりだ!!」
と捨て台詞を叫び、レイルは帰ってしまったのだが――
――そして今に至る。
思い返してみれば、レイルの機嫌が悪かった事が原因だったに違いないと確信する。
……何故不機嫌だったのかは見当もつかないが。
「あちらが謝るまで……っ絶対に謝りません!!!」
互いにかなりの頑固な性格だということは承知済みだ。
これは長期戦になるだろうと、覚悟もしていた。
どちらも謝らない、という状況が一週間、いや、二週間は軽く続くだろう。
その間ずっと会えない…少し寂しいかもしれない……
「っ寂しいものですか!!もう絶交したのですから、レイルは恋人でもなんでも――」
――そうだ。
折角、折角恋人同士にもなったというのに、絶交したのだ。
「……レイル…」
途端、胸が締め付けられるように苦しくなった。
紛らわすように首を振る。
「そもそも私から会いにはいけないのですから…っ」
レイルが気を許して、また会いにきてはくれぬだろうかと甘い考えがよぎった。
けれどあの様子では、今日明後日もここには来てくれないだろう。
アミダテリオンは床に落ちた数冊の本を拾い上げる。
「馬鹿…ですね…」
壊れた本棚を見、彼女は酷く震えた声でそうこぼした。
―――――――――――
「…ょぅ、クァイス」
「………レイル?」
異様なほどの暗いオーラを纏った相棒の姿に、クァイスは思わず顔をひきつらせる。
一瞬彼と認識するのに戸惑った程だ。
「おま…テンション低いな…。どうした?」
「低いも何も…彼女と喧嘩して後悔してたらこうなるだろ……しかもレベルの高い喧嘩でさ……」
「彼女って…あのユーク族とか!?前もしてたじゃねぇか?」
とりあえず座れ、と、クァイスはレイルをベンチへと促す。
2人で並んで座り、クァイスが話を繋げた。
「今度はどんな内容なんだよ」
「…ベルのせいだ……アミダテリオンの所行く前にあいつと揉めてさ……。不機嫌MAXで約束の時間に
アミダテリオンの所行ったら今度はそいつがキレるよ。俺も糸がプッツンいって物飛ばしたりしてバコ
ンバコンやって最終的に俺がぶち切れて帰った……。マジごめんアミダテリオン~……」
レイルがクァイスに泣きつく。
彼は半ば呆れ気味に息を吐いた。
情けない相棒を引き剥がしてその背中をバシッと強く叩く。
「いって!!」
「自分が悪いと思ってんなら謝ってくりゃいい話だろうが!お前らしくないぞ!!」
「気まずいだろ、この状況じゃ…!!しかも絶交宣言してきたし…派手に…」
いつものポジティブな彼はどこへやら、語尾が段々と弱まりマイナス思考になるレイル。
クァイスは二度目のため息をつくと頭を掻く。
この2人の事だから、何かのきっかけが無いことには謝罪ができないのだろう。
レイルとは長い付き合いだからそんな事は分かる。
それに問題は、レイル自らが出向かなくてはあちらの世界には行けないらしいという事だ。
あのユーク族がこちらの世界に来るにはレイルの力が必要らしいし……。
「ったく…前の喧嘩といい今回といい、お前らは本当にめんどくさいな!!!」
「クァイスには分かんないだろ…彼女いねぇしな―――ぅお!!!」
背中を衝撃襲った――正確には隣のクァイスに蹴っ飛ばされてベンチから落ち思い切り背中を打った。
禁止用語だったらしい。
「…お前の相談には二度と乗らねーぞ」
「げ、あ、マジごめんっ」
「自分達でなんとかしろ!!好きなんだったらその場の勢いなんかで絶交すんな!!もうガキじゃねぇんだ!!!」
言うだけ言われて、レイルは1人広場のベンチ(の下)に残された。
唯一頼れる相棒も呆れて消えてしまい、彼は途方に暮れる事となる。
「……どう謝ればいいんだよ」
頭下げて悪かった、か?
抱きしめてからごめん、か?
仲直りHの持ちかけ、か?
「…思い付かん…!!」
こんなに悩むなら、喧嘩なんてしなければ良かったと後悔の念が渦巻いた。
彼女が、アミダテリオンが傷付いていたりでもしたらどうしよう…とレイルは泣きたくなる。
「いやでも、本当にまだキレてたらどうする…?」
絶交なんでしょう、もう二度と来ないでください!!貴方なんか大嫌いです!!!
――なんて言われた日には死ねるだろう、多分。
「即追い出され…なんてマジであり得る……蹴っ飛ばされてでも戻されるかもしれない…」
思考は下降線一方を辿るばかりだ。
ここにクァイスがいたらまた怒鳴られ背中に渇を入れられるだろう。
「……謝りに、行こう」
クァイスに言われた通りだ。
らしくない。
「…よぉっし、行くぞ!!!!」
胸の前でガッツポーズを作り、叫ぶ。
きっと許してくれるだろう。
いや、許してくれなければ帰らない。
「ワープポイントどこだ!!」
傍から見ればただの不審者だっただろう。
しかしレイルは周りなど眼中にも入れずにその場を全速力で走り去って行った。
―――――――――――