「ナースもいい。ゴスロリとか、ケモミミとか、スク水とかもいいけど。
でもやっぱりメイドだと思う」
「…それで私にどうしろというのですか」
「…着てほしいんだけど」
「着ませんよ」
あっさりとされた返答にレイルは大きく肩を落としてため息をつく。
最近何に影響されたのか、しつこくメイドとかいうものを着ろと迫ってくるレイルの額を柔らかくコツンと叩いて
適当にあしらった。
いつものようにソファーに隣り合って座りのんびり過ごす。
自分の方が許可をとらない限り性交まではいかない為、特に毎回何も起こらず部屋デートは終了している。
レイルは不満なようだが、こんな絶倫を毎日のように相手にしていたら本当にこちらの体がもたないであろう。
アミダテリオンは納得のいかない表情をしたレイルに呆れたようにため息をつく。
「絶対似合うと思うけどな…」
「そもそもこんな鎧の状態で着れるとでも思っているのですか?
ほら、もう時間ですよ。今日はもうお別れです」
ふと時計を見て彼に帰るよう促した。
レイルは更に不満そうに眉間に皴を寄せる。
帰りたくないようだが、こちらはずっと一緒に居たいわけでもない。
あちらの世界の方でもレイルがしっかり生活してくれなければ困る。
「では、さようなら」
「…、分かったよ」
かなり渋々といった様子でレイルはやっと承諾をしてソファーから立ち上がる。
いつものように部屋の中央にある泉へ歩み寄って、彼はそこに帰って行った。
「…ふぅ…」
彼が帰ってから数十分後。
ふと考えた。
先日からメイドメイドと言っているレイルだが、実際アミダテリオン自身、メイドというものがどういうものかは
明確には認識していない。
そもそもずっとレイルたちの住む世界には行った事など無く。
そういった特殊な文化についてはなんの知識も無いのが事実であった。
「ふむ…どこを調べればいいのやら…」
とりあえずメイドとかいうものの調査だけはしておこうと。
アミダテリオンは、表の世界を映す事のできる、先程レイルが帰路に使った泉へ近付きそれを覗き込んだ。
どこを見ればいいのか分からず、まずはと彼女は王都アルフィタリアの噴水広場を泉へ映す。
「…レイル?」
そこに彼の姿を見つけアミダテリオンは目を見張った。
たまたま帰った先がこの場所だったのだろうか。
噴水付近のベンチに座り片手に紙コップを持ってそれを口に当てている。
何か飲んでくつろいでいるのだろう。
――しばらく彼の様子を眺めていると、異変が。
「……!?」
視界に映った光景に驚いて、アミダテリオンは思わず泉をがっつくように疑視する。
「だ…、誰ですか、これはっ!? レイル!!!」
一人座ってくつろぐレイルに近付いて何かしら会話を始めた、黒いミニワンピースに白いレースエプロンのような
服装の若い女性。
茶髪のセミロングヘアーにはレースのカチューシャを付けている。
慌ててそれを拡大して映し出し会話を聞き取れるようにした。
『こんにちわぁ!』
『? こんにちは』
『今ぁ、メイド喫茶というものをやっているんですけど、ご主人様もどうですか? 可愛いメイド達がお迎えしてく
れますよぉ!』
『…あんたみたいな?』
『はい! 私みたいなメイドさん、いっぱいいますよ!』
『…行こう、かな~…』
「レイルゥゥっ!!!」
声が届かないという事実も忘れて泉に怒鳴る。
彼本人の前では言わないが、はっきり言ってレイルが他の女性と親しくするなんて許せなかった。
つまりただのヤキモチなのだが。
すると。
『やっぱ行かない』
『えぇ~! どうしてですか、ご主人様ぁ!!』
『俺、今の恋人で十分満足してるし。なかなか可愛いぜ、俺の彼女』
……自分の事を、言ったのか。
レイルの唐突ながらも嬉しい、歯の浮くような台詞にアミダテリオンは思わず床を数回拳でたたく。
「っふふ……な、何を言うかと思えば…まったく…」
そして明らかに軽やかな足取りで泉から離れ、レイルを追跡していた映像を消した。
再び泉に映されたのは、先程レイルへ声をかけた女性。
――会話から推理すると、彼女がメイドなのか。
そもそもメイドとはなんだ?
服の事を指すのか、彼女のような女性を指すのか不明確だ。
アミダテリオンは浮かれた自分の頭をぶんぶんと振って気を取り直すと、ソファーに座り泉を通してその女性を追
跡し始めた。
「…?」
メイドの女性はしばらく噴水広場を歩き回ったのかと思うと、ある建物へ入る。
拡大すると、建物の前に看板がある事に気付く。
「メイド喫茶…お帰りなさいませ、ご主人様?」
またメイドという文字を見つけ、アミダテリオンはいよいよ訳が分からなくなる。
今度は喫茶…メイドとは店の名前なのか?
考えていても仕方ないと、彼女は実際にこの目で確かめようと泉の映像を建物内へと変える。
中はテーブルと椅子がいくつも並んで、窓やカウンターが綺麗に飾り付けられた、普通の喫茶店となんら変わりも
無い様子だった。
喫茶店はまだ開店して間もないのか、まだ客はいない。
代わりに、あの黒いミニワンピースと白いレースのエプロンの服装をした女性が何人もせわしなく動いているだけ
で。
しばらく数分程店内の様子を見ていると、店の扉を開けると合図で鳴る鈴の音が店内へ届いた。
客が来たようだ。
すると。
女性が全員声を揃えて、
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
ご主人様、先程の女性がレイルを呼ぶ際に用いた語だ。
更に疑問符を浮かべたアミダテリオンの目に映ったのは、店の客であろう男性。
小太りで眼鏡をかけた、まぁお世辞にも格好よいとは言えない男性客は、店員であろうあの黒いミニワンピースの
服を着た女性に案内されて席についた。
「…レイルの方が何倍も格好いいですね……、っではなくて!」
無意識に漏らしてしまった本音をごまかすように首を左右に振って気を紛らわすと、再び店内の様子を伺いながら
またアミダテリオンは疑問を浮かべる。
――ご主人様、という呼称は、指定無く誰にでも使ってよいのだろうか。
あのセミロングの女性がレイルに話し掛けた際も『ご主人様』、この男性客も『ご主人様』。
まるで意味が分からない。
ご主人様は誰でもいいのか。
「レイルはこんな物がいいのですか…よく分かりません…」
彼が喜ぶのなら、なんでもやってやりたい。
本望だ。
だからこそ今こうして興味も関心も無い『メイド』について学んでいるわけで。
――レイルに直接聞いた方が、きっと早いだろう。
だがそんな質問出来るはずがない。
きっとソノ気になって押し倒されるだろうからだ。
『メイド』――…催促からして、恐らくあの黒いミニワンピースにフリフリのレース、カチューシャを身につけた
女性たちをメイドと称していい事は確かだろう。
そして彼女らメイドが店員を勤め営む為から名称された『メイド喫茶』。
予測だが推理はできた。
『ご主人』が理解できていないが。
「まったく…私たちを追放しておいてこんな下らない文化を築いているのですか、アルフィタリアは…」
王都が何をしたいのかまったくもって分からなかった。
こんなものに興味を引かれる側も引かれる側だ。
ソファで脚を組んでしばらく様子を見守るが、特に何かの進展があるわけでもなく。
アミダテリオンは諦めて泉の映像を絶った。
漏れるのは小さなため息。
「…ご主人様…」
レイルをそう呼べば、彼は喜んでくれるのだろうか。
だがまだ意味理解が曖昧なその言葉を使うのは危険すぎる。
――何が起こるか、分からないからだ。
「…次にレイルが来たときにでも聞きますか…」
彼の事だ、きっとまた明日の晩頃には再び尋ねてくるだろう。
今見た光景やまとめた情報を頭に刻んで、アミダテリオンはしばらくの休息を取る事にした――……。
「…ん」
ふと目が覚めた。
どうやら自分がいつの間にかソファに寝転がり就寝してしまっていたという事実に気付き、アミダテリオンは慌て
て寝過ごしたと仰向けの状態から上半身を起こそうとする――
が。
「おはよう、アミダテリオン。いや、まだ夜だけどな」
「っ!?」
起き上がろうとした上半身に回される腕、背後からの聞き慣れた声。
アミダテリオンは驚いて声にならない悲鳴を上げると、すぐさま首だけを後ろへ振り向かせた。
「っ、レイル!」
「んー?」
そこには予想通りの人物。
ソファの上に胡座をかくレイルの膝の上にずっと体を預けていたらしく。
慌てて彼から離れようとするアミダテリオンだったが、抱きすくめられる力をまた強くされ途端に動けなくなって
しまった。
「、レイル…離れて下さ……、んっ!」
「嫌に決まってんだろ」
突然首に吸い付かれ思わず声を上げる。
間髪入れずにクリスタルの胸部から脚までを愛撫のように触られ、あっという間にアミダテリオンは力が抜け背後
のレイルに再び体を預ける事となってしまった。
「な、んでっ、こうなってるのですかっ!」
「あー? ちょっと勝手に来たらお前が寝てたからかな」
「! ばっ、か、ぅん」
僅かに声の口調を強めて抗議をするが、彼からはからかうような返事しか返ってこなく。
指輪の付いた手がマントと鎧の下へ滑り込みアミダテリオンは堪らず甘みを含めた声を漏らした。
「っは…」
「…可愛いな」
完全にソノ気だ。
抱き寄せる上半身を腕から解放し、レイルはアミダテリオンの体を自分の方へ回転させるとそのままソファの上へ
仰向けに優しく押し倒した。
本気を出せば彼の隙をついて蹴りを入れるなどしていくらでも脱出はできる。
だが今のアミダテリオンに抵抗する気など無かった。
そして、滅多にしない、彼へのお願い。
「レイ、る、ぅ…」
「ん…?」
「、あの、きょ、うの…ぉ、その…。……は、…め、メイド、でも構わない…ですよ…?」
レイルが、アミダテリオンの突然の予想だにしなかった発言に青い目を見開く。
当のアミダテリオンと言えば、仮面の下をこれでもかと熱くし、レイルから出来る限り顔を逸らして返事を待
つばかりだ。
かなり勇気のいる事だった。
彼の返事が怖い。
もしや自分が認識を誤っていて、今の言葉の選び方が違っていたら?
相当恥ずかしい。
「レイル…?」
「……あ、いや。その…アミダテリオンが、いいって言うなら…やっても…」
自分の感情を出さずに控えめな発言をしたつもりだったのだろうが。
明らかに彼の表情は喜びに緩んで、照れや恥ずかしさからくるのだろう、顔は金髪の下の耳まで真っ赤に染ま
っていた。
「あ、あの…いいですか? でも、メイド…とは、ただ貴方を『ご主人様』と呼ぶだけでよろしいのでしょう
か?」
「、へ? お、お前よく知ってるな…どこで…」
「っ! 、あ、…貴方の為に多少の事は事前に学んでおいたのです! 興味関心の無いあんな下らない事をっ…
…」
レイルの驚いたような反応。
よく考えればそうだ。
今日彼の為だけにメイドというものを調査した事、一言も伝えてなかった。
なんだか『レイルの為だけ』にした自分の行為が無性に恥ずかしくなり、アミダテリオンは反射的に彼から仮
面を逸らす。
が、逸らした顔はレイルの手によってすぐに正面へ引き戻された。
「…っなんでそんなに、」
「え?」
「なんでそんなに可愛いんだよ、お前は!!!」
と、返事をする時間も与えられないまま、アミダテリオンはレイルに強く抱きしめられ。
驚いて声も出せずになっていると仮面のすぐ傍でレイルが囁く。
「メイド、なんの準備もできてないし、今日はいいだろ? …我慢できない」
「っ、ま、レイル!」
抱きしめる力を緩め、ジャケットの片腕を器用に脱ぎ、もう片方を引力で脱いでジャケットを床へ放り投げる
レイルにアミダテリオンは慌てて声を上げる。
だがもう遅い。
彼は既に止まらない所まできていた。
「…お前が悪いんだぞ?」
「レイルっ、! …あぁ、もう!」
うんざりしたように声を荒げるが、抵抗する気力はまったく無く。
結局2人はその日朝を迎えるまでソファの上から降りなかった―――。
「なぁ機嫌直せって」
「嫌です、この絶倫! 私の体も考えて…、」
「…おねだりしたのは誰だよ」
「っば!」
翌朝。
上半身に何も身につけずにソファへ腰掛けるアミダテリオンの膝へ頭を預ける(つまりひざ枕)レイルに、彼
女は仮面の下を熱くしながら顔を逸らして怒鳴る。
服装、といっても鎧なわけだが、を一切乱していないアミダテリオンの長いマントを指で巻いたりして暇な
手を遊んでみて彼女を下から見上げた。
相当照れているのが伝わってくる。
仮面で表情の認識はできないのに何故だろうか、不思議だ。
「んーアミダテリオンはメイドじゃなくても充分可愛いな」
「…もうやりませんよ?」
「素直に受け止めろよ…」
冷めた口調でそう言い放つ彼女がツンデレだという事実は承知済みだ。
レイルはひざ枕状態から頭上のアミダテリオンの仮面へ右手を伸ばし、そこに触れた。
人肌とは違う金属的な冷たさ。
その心地良い冷たさが気に入ってずっと撫でてみる。
アミダテリオンも拒否はせずに大人しくレイルの手を受け入れ、その自身に触れる指輪の手に彼女は自分の
ユーク族独特な形をした手を重ね。
そして優しく呟いた。
「まぁ、いつか…機会があったら…」
「え、機会? なんの」
「、なんでもありませんっ!」
明らかに分かっている、意地悪な表情をしてアミダテリオンにそう返すレイルに。
彼女は更に顔を熱くしてそう叫んだ。
――――後日。
「アミダテリオーン!」
彼は来るなり腕に抱えていた何かをアミダテリオンに見せ付けるようにバッと両手で開いた。
それに視線を向けるなりアミダテリオンはギョッとして身を引く。
「っな、それっ」
「ほら、この間言ってたろ? メイドプレイご希望と」
「~~っ、れ、レイルうぅぅ!!」
その日、両者の希望通り彼女はそのどこで手に入れたのか、レイルが持参した『メイド服』に袖を通した
とか通さなかったとか。
とりあえずまた2人はいろいろと仲良くした。
〔END〕
あとがき
メイド書くおーって思ってたら一回も着てなかった。なんの罠。
ただレイアミでいちゃつかせたかっただけです!\(^o^)/
久しぶりのちゃんとした更新だったなー、てかFFCCばっかですみません、再熱したもので(´・ω・`)
今度他の続きとか続きとか続きとか書かなきゃ…
放置してるの多すぎ( ^ω^)