暗い廊下の奥から、微かな声がした。
ガブリアスは上げていた腕を下ろす。
「なんだ、今の」
耳を澄ませ、もう一度声を聞こうとしたが、無駄だった。
暗い廊下は、再び静寂に包まれる。
気になって声のありかを調べたかったが、バンギラスを部屋の中に残すわけにはいかない。
「……………よ…」
また、微かに声がした。
姿を現さない声の主に、ガブリアスは怒りを覚える。
「さっきから…。おい!!誰だか知らないが、堂々と出て来い!!!」
やはり返事は聞こえない。
いい加減、腸が煮え繰り返ってきた。
「バンギラス!!部屋から動くなよ!!すぐ戻ってくる!!!」
そう言い残し、ガブリアスは走り出す。
今は、声のありかを突き止め、そいつをひっ捕まえる事の方が先決だった。
長い廊下をしばらく走れば、角に差し掛かる。
声は確かこちらから聞こえた。
「っ」
角を曲がり、暗い廊下に目を凝らす。
しかし、そこには、ただ暗闇が続いているだけだった。
「っ…なんだってんだよ……」
確かに、確かに自分は声を聞いた。
しかし、そこには声がしたという証拠を何一つとして残していない。
不気味なほど静かなだけだ。
しかも、あの声。
トーンは女性の声だった。
けど
「生き物じゃねぇ…」
「……カブリアス?」
一方。
部屋から消えたガブリアスを、彼、バンギラスは探していた。
「おい…。どこ行ったんだよ」
恐怖のあまりモンスターボールの中にこもっていたが、その間に何が起こったのか。
扉は閉まっていて、近くのテーブルの上にはカードキーがそのまま置いてあった。
まさか、カードキーも無しで部屋から出たのでは。
「い、一匹にするなっての…ッ!」
扉を開けて廊下を確認する勇気など、そんな立派な物は持ち合わせていない。
仕方なく、マニューラを起こす事にした。
「お、おい。マニューラ、起きろってば」
「はぁ…?何……?」
彼の目が僅かに開く。
こちらを確認して、マニューラは静かにベッドから起き上がった。
「バンギラス…?どうしたの…」
「ガ、ガブリアスがいねぇんだよ」
「トイレじゃないの…。起こすなよー…」
相当眠いのだろう。
まぁ、今は12時だから当たり前か。
マニューラはすぐにベッドに倒れた。
「ううぅ…」
仕方なく、バンギラスはカードキーを扉に挿す。
勇気を振り絞って扉を開けた。
けど、やはりそこは暗黒の闇が続いているだけだ。
「ガブリアスー……」
小さな声で呼んでみるが、当然のように返事は無い。
部屋から出る勇気も無い。
「ドダイトス、ムクホーク、レントラー、誰でもいいから起きてくれぇ!!」
情けない口調で言うが、全員ただ今爆睡中だ。
起きる様子は無い。
「ガブリアスぅ…」
今ものすごく彼が恋しい。
別に、恋ってわけではないが。
あぁ。
本当に、幽霊は苦手だ。
「…探しに行こうか……」
悩んでいれば、ドアノブを放してしまった。
当然
バタンッ
「っ!?嘘だ!!!」
扉が閉まってしまう。
カードキーは、お決まりに部屋の中。
「ああぁぁッ、くそ!!!ガブリアス~!!!」
一方のガブリアスは。
「…どこだ……」
精神を集中させて、声の気配を探す。
腹の中では、じれったさから来る怒りと、声に対する好奇心が渦巻いていた。
「……ぁ」
そういえば、バンギラスを置いてきてしまった。
大丈夫だろうか。
強がってはいたが、彼は怖がっていた。
今、ちゃんと部屋で大人しくしているか――。
急に気になってきた。
心配だ。
ガブリアスは集中を途切らせ、廊下を進んだ。
部屋の場所は確か――――。
「こっち……」
角を曲がる。
しかし
ドンッ
何かにぶつかった。
ガブリアスはなんとか体勢を立て直したが、何か、ぶつかった対象物が
ドスン、と、鈍い音を立てた。
「な、なんだ?」
暗闇に目を凝らす。
だが、やはりよく見えない。
「いってぇ……!なんだ?」
「ば、バンギラス!!?」
声で一発で分かった。
バンギラスもこちらの正体が分かったらしく、歓声を上げる。
「ガブリアス!!良かった、会いたかった…!」
がば、とバンギラスはガブリアスの胸に抱きついた。
何故か、ドキリと心臓が高鳴る。
自分より少しばかり身長の高いバンギラスを、大切そうに抱き締めた。
「いや、その……悪かった」
「あぁ……」
謝ってバンギラスをまた強く、抱く。
これでは、まるで恋人同士ではないか。
―――恋人?
「う、ぅわわわっっ!!!」
いきなり恥ずかしくなって、バンギラスを自分から離すそうとする。
だが、バンギラスの方は自分から離れようとしない。
困った。
本当に困った。
「あ、ああぁ、その、バンギラスぅ……」
「馬鹿…なんでいなくなったんだよ……」
あぁ、怖かったのだろう。
それは理解できるが、この状況――!!
さっきから心臓が早鐘のように鳴っている。
馬鹿、相手は男だ。
何を動揺しているんだ。
けど―――――。
「がぶりあす……」
今の彼は
滅茶苦茶、可愛い。
「バンギラス…。とりあえず、部屋に戻ろう。扉はなんとか開ける」
「うん…」
寄り添ったままのバンギラスの体温を直に感じて、緊張しながらもガブリアスは歩き出した。
そのときだった。
[つづく]