側にいて。前編

 

「うわぁ。噂通り、デカいわねー」

シンオウ地方、リゾートエリア。
その場所に新しくできた高級ホテル。

その巨大さを見て、少女セリカは感心の声を上げる。


ポケモン回復設備、レストラン、客が充分に休養できる部屋
全てが完璧に揃っているここ。
トレーナーなら一度は過ごしてみたい場所だ。

しかし、代わりには高額な代金。
庶民では全然手が届かない。


だが、今回、セリカがここに来た訳は。


「今日はここで、ゆーーっくり休むわよ!!!」


手に一枚の紙を持ち、意気揚々とホテル内に入るセリカ。

先日、コトブキのくじでまんまと一等を当て、手に入れた、
「リゾートホテル一泊タダ券」だ。
もちろん、先着一名。

なんとも太っ腹な券だ。

 

中に入れば、やはり立派なロビー。
赤い絨毯が敷き詰められ、周りにはいかにも金持ちそうなトレーナー達。

少し浮くかな、とさすがにセリカも気になる。

「あの、」

受付の店員に声をかけ、チケットを見せる。
了解したのか、店員は後ろから一人の女性を呼んだ。

「お荷物、お持ちいたします」

女性の丁寧な言葉遣いと、流れるような仕草に思わず見惚れるが、すぐにハッとする。
ボーッとしていれば更に浮いてしまうに違いない。

 


「お客様は、トレーナーをおやりになっているのですか?」
「えっ、あ、はい!」

エレベーターを降り、長い廊下を歩いているときに声を掛けられる。
セリカは緊張のあまり裏声になった。

「お強そうですわね。私、ぜひとも戦ってみたいです」
「そ、そんな事ないですよ。あはは。それにしても、素敵なホテルですよね。ここからは海も見えるし」
「えぇ。私も、ここに勤めさせてもらえて、光栄ですの」

女性とそんな他愛のない会話をしながら、廊下を歩き続ける。
2つ目の角を曲がった所で、やっと女性が止まった。


「ここです」

404号室。
4はあまり縁起の良い数字ではない。
しかし、そんな事を気にしていてはホテルライフは楽しめない。

鍵を開けてもらい、中に入る。
窓からは広大な海が見えた。

「うわ、すごい!!いいんですか、くじで来た人がこんないい所に泊まって!!!」
「ええもちろん。ここは一番窓からの景色がいいと言われているんですよ」

荷物を置きながら女性が言う。
ベッドはシングルが1つ、ダブルが2つ。
大きなソファが1つに、TV、バスルーム、ベランダ。
こんな所にタダで泊まれるなんて、夢のようだ。

「では、何かありましたらそこの電話でお呼び下さい。あと、お客様方のポケモンも、当ホテルでは出していい事になっておりますので。ごゆっくりどうぞ」

そう言い残し、女性は部屋を出て行った。
早速、セリカはモンスターボールをカバンから取り出す。

「みんな、出て来て!!!」


宙に投げ出され、一斉に開くボール。
中からは、計6匹のポケモンが。

「今日はここで好きにしていいわよ!!ただし、この部屋からは出ないように」


トレーナーセリカは、一人でホテル内を楽しむのか、ポケモンを残して颯爽と部屋を出て行った。
早速ムクホークが辺りを見渡す。

「ダブルベッドが2つか…。よし、1つはオレとドダイトスの分」
「俺はお前とは寝ない」

「私はシングルで寝るからね。あんた達は床で寝てなさい」

チームでは長い3匹がさっさと自分の寝場所を決め、それぞれが広い部屋内に散らばる。

残された3匹は、これからどうするかと、辺りを見渡した。


「オレは床で寝る。マニューラはセリカと同じベッドで寝ろよ、小さいし」
「あ、ああ…」

バンギラスにそう指示され、マニューラは曖昧に頷く。
一方ガブリアスは、TV周辺をうろついていた。

「何してんだ、ガブリアス」
「んあ…。なんか、ビデオかDVDでも無いかと思って」
「ガブリアス、これはどうだ?」

いつの間にか、部屋の巡回が終わったムクホークが後ろから声を掛けてくる。
翼には、1つのDVDパッケージが握られていた。

「あ、これ、去年すごい怖いって話題になったホラー映画だろ?」
「おう。あっちの棚にあってよ。誰か、前使ってた奴が忘れてったんだろ」

マニューラに言われ、ムクホークが後ろの棚を指す。


「今から見るか?」
「待て。今から、か?」
「んだよドダイトス。怖いのか?オレの胸はいつでも空いてるぜ」

「違う。昼間から見ても面白くないだろう。どうせ見るんなら、夜に見た方がスリルがあるんじゃないか?」

確かに、とほぼ全員が頷く。
ただ、1匹を除いて。

「ち、ちょっと待て。オレは絶対見ないぞ」
「なんでよ。みんなで見た方が面白いじゃない」
「いや、でも…」

レントラーに指摘され、たじろぐバンギラス。
結局そのときは反論をやめていたが、何かあるのだろうかと、ガブリアス1匹だけが心配になった。

 

 


「さて、セリカも寝たし…」

部屋に入るなり爆睡したセリカ。
相当遊んできたのだろう。

ポケモン達は、もらったポケモンフーズを食べ終え、例のDVDを見ようとしていた。

「オレはドダイトスの隣で見る!!!誰も近付くなよ!!!」
「……勝手にしろ、馬鹿」

「オレは本当に見たくないんだよ…」

1匹でブルーになるバンギラス。
しかし誰もバンギラスの意見など聞いちゃいない。
ガブリアスも、正直このDVDは前から見たいと思っていたので、みんなを止めようとはしていなかった。


マニューラがDVDをセットする。
画面が映し出された。

部屋は真っ暗だ。

映画のバックミュージックも、この暗闇の中では更に恐怖さを増す。


「…やっぱり、噂通り結構怖いな…」
「は、ド、ドダイトス、ビビッてんじゃ、ね、ねぇよッ」
「…お前の方が充分ビビッてるぞ」

隣で、情けなくも震えるムクホークにため息をつく。
少しムクホークに寄り添った。
仕方なく、だ。

「ドダイトス…!?」
「馬鹿。…お前が、怖がるからだぞ」

そう言うドダイトスの顔も、わずかに赤い。
自分の翼を、ドダイトスの後ろに回そうとする。

が、

「あんた達。今は映画鑑賞中よ。いちゃいちゃしてないで映画に集中しなさい」

レントラーにビシと言われ、ムクホークは素早く翼を引っ込める。
何故こんなチャンスのときだけヘタレになってしまうのか…
自分が情けなかった。

 

 

一時間後------。


殆ど全員が、睡魔に勝てず寝てしまった。
ホラー映画は現在も尚進行している。

起きているのは、ガブリアスとバンギラスだけだった。

「ガ、ガブリアス…。もう寝ようぜ」
「俺は最後まで見る」

いい加減映画鑑賞をやめたくて、ガブリアスに持ちかけるが、即答されてしまう。

「じ、じゃあ、オレは寝るからな。映画に飽きたし」
「……怖いのか」
「は…、はぁっ!!?」

思わず、大声をあげた。
他のメンバーが寝ている事を思い出し、バンギラスは急いで口を押さえる。

「ん、んな訳無いだろ!!トイレ行ってくるッ」

「知ってるか?夜中の12時に1匹でトイレに入ると、窓から血まみれの女が覗いてきてくるって話。
ぎょろぎょろした目でこっちを見てきて、閉まっていても窓が勝手に開いて、手をのばしてくるんだってよ」

こっちを見向きもせず、ペラペラと喋るガブリアス。
時計を見れば、今は12時10分だった。

「こ、ここは4階だぞ」
「例えビルの最上階だろうが、そいつには関係の無い話だろ」

足がすくんで、動けなくなる。
もう2度と、夜中にトイレへ行けなくなってしまうような気がした。

「馬鹿野朗ッ!!そ、そんなのが怖い訳無ぇだろ。あーさて寝るか」

わざと話を逸らし、寝床の床に寝転がるバンギラス。
しかしそこは部屋の一番隅だ。


「オレは寝るからなッ」
「はいはい」

ガブリアスは適当に促すが、バンギラスの方は明らかに声が震えている。
と、そのとき。

 


ドンドンドンッ!!!!

 

 

部屋の扉が、強く叩かれた。
ホテルの従業員か、と思ったが、こんな時間に従業員が客の部屋に尋ねてくるのはおかしい。
それに、叩き方の強さが異常だった。


「な、なんだ、今の」

怯えた様子で、ガブリアスま側まで寄ってくるバンギラス。

 

ドンドンドンドンッ!!!!

 

先ほどより一層強く叩かれる扉。
明らかに、

 

人間が叩いている音ではない。

 


「っ、様子見てくる」
「な、おい!!!待てよ!!1匹にする気か!!?」
「じゃあついて来るのか?」

う…、と反論できなくなるバンギラスに構う様子も無く、ガブリアスは部屋のカードキーを持って扉に向かった。
慎重に、鍵を開ける。


バンッ!!


勢い良く、扉を蹴って開けた。
しかし。

「…誰もいない」

長い廊下には、誰もいなかったのだ。
暗い廊下は、不気味な程静かだ。


「おかしい…」


先ほどの、異常に強く叩かれた扉の音。
誰もいない廊下。
物音の一つもしないここは、静寂と漆黒に支配されていた。

 

バタンッ


「っ、しまっ……」

 

ドアノブから手を放せば、扉が閉まってしまう。
カードキーは部屋の中だ。


「おいっ!!バンギラス!!!開けてくれ!!」


扉を叩くが、反応が無い。
この際破壊してしまおうと、ガブリアスはドラゴンクローの体勢をとった。

しかし。

 

「………ん…で……」

 


暗黒から、微かな、消えそうな声がした--------。

 


[つづく]

 

モドル