「……という訳で、全員参加のトーナメントを行う。集合場所はステージ転送装置部屋のロビー。日にちは2週間後。詳しい時間はまた後日知らせる。で……」
スマブラタワー、ロビー。
ここで、半年に一度行われるトーナメント式の大会の説明会がされていた。
マスターハンドは真面目だが、基本面倒くさがりで、いつも終点で暇を持て余している。
まれにシンプルを行ったり、ボスバトルを勝ち抜いたりしていた者がマスターハンドと顔を合わせれば、終点にちゃぶ台とTVと菓子を持ち込んでいる始末だ。
それだけ暇なのだろう。
そんなマスターハンドが、説明をなるべく早く済ませようと、メンバー全員の前でさっさと次の内容に移ろうとしたときだった。
「マスター。ちょっといいか?」
ロビーの扉が開き、マスターハンドと同じ、白い左手の手袋がひょっこり姿を現した。
「クレイジー?モニター監視はどうした」
「あぁ…そのモニターの事だけどよ……」
説明を一旦中断し、マスターハンドとクレイジーハンドが話し込み始めた。
「ふぁ~あ……。この後乱闘があるってのによ。疲れたぜ。ずっと立ってるし」
ファルコが両腕をうーんと伸ばし、ため息をつく。
しかし、隣にいるサムスは無言だ。
ファルコが声を掛ける。
「おい、サムス?」
「思ったんだけど……。マスターハンドとクレイジーハンドって、名前長いわよね」
「…だからどうした」
「けど、あいつら本人は゛マスター゛・゛クレイジー゛って呼んであってる」
「で?」
「デキてんじゃないかしら。あいつら」
サムスの一言に、ファルコが吹き出した。(笑ったのではなく)
そしてなるべく小さい声で叫ぶ。
「(て、手袋同士なのにデキるワケねぇだろ!!そりゃあいつらは仲いいけどよっっ)」
「あら、そうかしらね。あんただって例外じゃないでしょ。惚れた相手が狐じゃあ」
「ばっっ!!!テメっ…」
思わず大声わ出してしまい、周りのファイターから視線が集まった。
ファルコが口を押さえ、更に声を潜める。
「(馬鹿な事言ってんじゃねぇよっ。あいつらに今の聞かれてたらぶっ飛ばされるぜ)」
「私たちは、マスターハンドと会った時。マスターハンド直々に゛マスターハンドと呼んでくれ。マスターという敬称略は、無しだ。゛って言ってたじゃない。つまり、あまり馴れ馴れしくするな。その呼び方は私にとって特別な者にしか許されていない……って事じゃないの?」
考えすぎだろう、と思ったが、まぁ確かにそれもあり得るだろう。
スマブラX始動の際、改めて参戦者全員にそう言われたのを思い出した。
それに従い、全員が゛マスターハンド゛とわざわざ長い名前を呼んでいるが、マスターハンドがクレイジーハンドにのみ、マスターという呼び名を許しているのは何故か。
「やっぱり、好きなのよ。クレイジーハンドが」
「ほ、本人の前で言うなよ、絶対!!!殺されるぞ!!」
「じゃあ、使者を送ろうかしら」
「……はぁ?」
「マスターハンドっ!!」
「ん…カービィか。今話し合いの最中なんだ。もう少し待っていてくれ」
使者というのは。
子供を使って、純粋な質問(と見せかけた)を投げかける至って簡単な、それでいてなんとも腹黒な作戦。
そして適任人材に選抜されたのがカービィだった。
「マスターハンド、どうするかしらね」
「ひでぇ奴……」
ギリギリで声が聞こえる場所に立ち、ファルコとサムスが耳を欹てる。
カービィが指示通り、無邪気な口調でマスターハンドに問い掛けた。
「ねぇねぇ、マスターハンド。なんで、マスターハンドの事、マスターって呼んじゃいけないの?クレイジーハンドは呼んでるのにさっ」
「む…?あぁ、その事か。そう言えばそうだな。一番最初の会議で言ったような……」
面倒臭いよー、と、カービィが駄々をこねるように続ける。
すると
「カービィ。あのな、マスターは、創造心の化身・スマブラ界の神なんだぜ。敬称略なんてもっての他だ。偉い人はちゃんとフルネームで呼ぶってのがマナーってもんだ」
「クレイジー」
「じゃあなんでクレイジーハンドはいいの?」
予定外に、クレイジーハンドがしゃしゃり出てきた為に、ファルコとサムスは慌てる。
マスターハンドの反応が見たかったのに、とカービィにジェスチャーで次の作戦を伝えようとするが、カービィがこちらを向かない。
「オレは…」
「オレは?」
「オレは、破壊心の化身と呼ばれている。だったら、マスターの相棒に相応しいのは、このオレだろう?というわけで、マスターをマスターと呼んでいいのはこのオレだけ。終わりっ、な」
そう言って、クレイジーハンドはカービィの頭――正確には体をポンポンと軽く叩いた。
すると
カービィは、恐らく本心であろう言葉を、クレイジーハンドに放った。
「クレイジーハンドは、本当にマスターハンドの事が好きだね!!やっぱり他の人たちには呼ばせたくないんだ、マスターって」
その無邪気で純粋なカービィの言葉。
予測していなかったのだろう。
クレイジーハンドは硬直し、マスターハンドは持っていた説明用紙の数枚をグシャリと握りつぶしてしまった。
「な、カービィっ。からかうのはよせ!!く、クレイジーも何か言って……」
マスターハンドが慌てて言うのに対し、クレイジーハンドは固まったまま動かないだけだ。
カービィの大声がロビー中に響いていたらしく、殆どのファイターたちが他の会話をしながらこちらに目を向けている。
「あはは、マスターハンド照れてるー」
「てっ、照れてなどいるものか!!!」
感情的なマスターハンドは、もはや態度に全てが出ていた。
白い手袋が、赤いのが分かる。
「マスターハンドも分かり易いわねぇ」
「クレイジーハンドが動かねぇぞ」
「驚いてるのかしらね」
ひそひそと声を潜めて、ファルコとサムスが会話を交わす。
すると
「……テメェらか。サムス、ファルコ」
低い声で名前を呼ばれて、ビクリと跳ね上がった。
見事見抜かれた。
「あっ、いや、その…」
「人を純粋な子供使ってからかうたぁ、いい趣味してんなあ?」
ファルコにじりじりと近付き、責めるクレイジーハンド。
そのとき、救世主サムスが二人の間に入った。
「…あんだ?」
「ふふん……。何照れ隠ししてるのよ、あんただってマスターハンドの事好きなくせに。世界中の誰よりも、ね」
クレイジーハンドの動きが止まる。
さっきと同じパターンだ。
「ほら、やっぱり。ラブラブね、相思相愛」
「~~っっ!!!だっかっら、オレはマスターの事なんて好きじゃねぇっての!!!!」
もはやクレイジーハンドは真っ赤に染まり、湯気を立てている。
マスターハンドは赤くなって、そっぽを向き黙っているだけだ。
「帰る!!」
憤慨したクレイジーハンドは、ロビーの扉へずんずんと進んで行った。
バンッ、と扉を開け、出る前に振り返る。
「いいか!オレは好きじゃねぇぞ、お前の事なんか!!自惚れんなよ!!!」
自滅行為になる捨て台詞を吐き、轟音を立てて、彼は扉を閉めた。
「ふふ、勝ったわ。あいつに。とうとう奴を撃沈させたわ」
「それが目標かよ…」
サムスが腰に手を当て、満足そうに笑う。
ファルコは疲れた、と側にあったソファに腰かけた。
「マスターハンド。早く続きの説明してくれ―――」
「解散だ!!各自乱闘でもなんでも勝手にしろ!!!説明は終わりだ!!」
そう叫ぶなり、マスターハンドはロビーを飛び出した。
全員が、その後ろ姿をぽかんと見詰める。
「あらら…」
「…お幸せにな。…あーあ、さて、乱闘行くか」
状況を悟ったほぼ全員のファイターたちが思い思いに散らばっていった。
ファルコもロビーを去る。
「…なんか、つまんないわ」
仕方ないか、と、サムスもロビーを出て行く。
そしてまた、スマブラ界に平穏な日々が戻っていく――――。
[END]
あとがき
無理矢理終わらせた感いっぱい。
クレマス大好きですー。
サムスは人をいじるのが好きそう。
ファルコはそういう面倒事にすぐ巻き込まれる。