貴方が産まれた日

「明日はク・リムさんの誕生日ですよ、お師匠様!!」

 


昼過ぎにノルシュターレンが家に帰ってくるなり叫んだ。
俺は読んでいた本を机に置き、弟子である少女を見る。


「…分かってるよ」
「えっ!?そうなんですか!!?でもなんの準備もしてないじゃないですかっ」

「あぁ……何も思いつかねぇんだよ。あいつの喜ぶものが」

 


ノルシュターレンはきょとんとしたようにこちらを見詰めた。


――そうするなり、いきなり吹く。


「…なぁにが言いたいんだ?」

「あぁぁあすみませんすみません!!!ただ、お師匠様もそんな事悩むんだなぁ、って!!いや、あの、いつも適当っていうか、お師匠様ってそんな感じなので……あぁ、生意気ですみません!!!」

 

平謝りするノルシュターレンを見て、今度は俺の方がきょとんとした。
――まぁ、こいつの言っている事は正しいがな。

確かに俺は几帳面でもないし、面倒な事は大嫌いだ。


こんな事で悩むのは珍しい。

 


「別に、俺なんかが祝わなくても、イリーナがご馳走を作ってくれるし、シェルロッタもなんか渡すだろうし。まぁ、『おめでとう』だけでも言っとくよ」


それじゃ駄目ですっ、とか言うノルシュターレンの声を背中で聞きながら、俺は地下の書庫へと足を運んだ。


地下は小さな明かりが一つしか無い。
暗い上に、相変わらず掃除をしていない為、歩く度に埃が舞う。


カツンカツンと音を立てながら、俺はある本棚の前で立ち止まった。

 

「…確か、この上の方に……」

 

さすがに届かないと判断して、俺は側にあったはしごを手繰り寄せる。
本棚にそれを立てかけ、上を目指して登った。

 

「これだ」


中から一冊の薄汚れた本を取って、俺ははしごを再び降りようとする。

 

 


「お師匠様ぁ!!いきなり行かないでくださいよ!!!」

 

背後からノルシュターレンの声がした。


その声に酷く驚いた俺は、思わずバランスを崩す。
はしごは大きく傾き――――

 


ドッタアァァァン!!!

 

派手な音を立てて転倒した。

 


「ってぇ~……!」
「ぎぃにゅあぁぁぁぁーーー!!!!だ、だだ、大丈夫ですか!!?あぁぁすみません私が話し掛けたばっかりにぃぃぃっ」

「…いや、…大丈夫だから」


俺が死んだんじゃないかとばかりに泣き叫ぶノルシュターレンの頭を、落ち着けとなだめながら撫でてやる。
しかしはしごが倒れた衝撃で、周りに埃が充満してしまった。
俺はむせて二、三回咳き込む。


「ケホ…ま、これが無事で良かったよ」
「…?なんですかそれ?」


ノルシュターレンが、俺の腕の中にある本を指差した。
俺は立ち上がり服の埃を払いながら、ノルシュターレンに来いと指で言う。


書庫の隅にあるテーブルへ行き、魔法で灯りを灯して本を開いた。

 

「わぁ、小説ですね!!でも、なんでこんな本が?魔法学の本じゃないですよね」
「そうだよ。これは、ク・リムが10になる前に読んでた本だ。すごい気に入ってたんだよなぁ…」


そのときを思い出すように俺は本のページをめくっていく。

ページは、八年そこらずっとほかっておいたせいか、黄ばんで、殆ど文字が読めない状態となっていた。

 

「もうずっとあそこに置いてたから、汚ぇけどな。ちょっと思い立ったから取っただけだ。そろそろ捨てないと」


「えぇ!?捨てちゃうんですか!!?勿体無い!!ク・リムさんとの思い出の品でしょう!!」

 

思い出―――と言っても、ク・リム自身はこんな物覚えてるかどうかなんて、定かではない。
俺が一方的に覚えているだけだろう。
こんな物取っておいても、邪魔になるだけだ。


こんな事ノルシュターレンに言ったらまた何か言われるから、俺は黙ったまま本をまた机に置く。
そして上に続く階段を上っていった。

 

 

―――明日はあいつの成人の儀。

早いものだな―――――。

 

 

 

 

「ウァルトリール」


夜中の一時。


俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

こんな夜中に誰だ、と思った自分を呪いたい。
声で一発で分かれよ……。

 


「ク・リム?なんだ、こんな時間に」
「いや、特になんの用も無いけど。会いたくなってさ」

 

な………

何を可愛い事言ってくれるんだこいつはっ!!!
馬鹿、いやいやこんな年下に、んな感情を抱くなただのロリコンになってしまう。

 

家の入り口でク・リムを前に、俺は心の中で身悶える。

しかし、肌寒い。
今は寝巻きだし――。
俺は寒さでくしゃみを一つした。

 

「寒い?」
「あ、いや…」
「これ着なよ」

そう言って、ク・リムは自分の羽織っていたガーディガンを俺の肩にかぶせる。
そんな行為に俺は不覚にもときめいた。

――あぁ、阿呆だ。
何を考えてんだか、俺は。


「あの、…ク・リム」
「ん?」


「…お前に会えて良かった。お前が産まれてきて良かった。
皆な。お前が大好きなんだよ。
シェルロッタや、エリルや、ノルシュターレンや、…俺も。


…大きくなったな、ク・リム。

誕生日、おめでとう」

 

相変わらず口下手だなぁ、俺。

こんな事しか言えないけど。
お前が大好きだと。とても大切な存在だと。


伝わっていればいいけどな。

 

「……ありがとう」

 

そう言って、そいつは笑った。

 

 

 

貴方が産まれた事は

貴方と私達が出会えた事は


この長い長い時の中での

 

最高の奇跡です。

 


[END]


あとがき

これだけ言わせてください。
ウァルトリールに限らずユーク大好きです。

満足ですー
久し振りにまともな小説書けた^^
なんだかんだ言って村の皆は主人公の事が大好きなんですよ。
お師匠様はちょいと恋愛感情抱いちゃって、でもそんな事俺は認めねぇみたいになっていると萌えます。

 

モドル